クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「お前、あれ全部食ったのか。すげーな」

「律己くん、お茶あるよ、飲む?」


私も有馬さんの隣に移動し、持っていた小さめのトートバッグから、水筒を取り出した。律己くんはこくんとうなずき、有馬さん越しにそれを受け取る。

ふいに彼が空を見上げたので、つられて大人ふたりも上を見た。


「飛行機か」


高い秋の空いっぱいに、どこからか聞こえてくるエンジン音が充満している。


「どこにいるんだろうね」


律己くんと一緒にきょろきょろしてみたものの、見当たらない。かなり高いところにいるか、雲に隠れているか。


「あっちじゃないか?」


有馬さんが律己くんの向こう側の空を指さした。

私も律己くんも、その指の先に顔を向け、銀色の機体を見つけようと、広がる青空に目を凝らす。

有馬さんが振り向き、私の唇にキスをした。

一瞬の不意打ち。

企みが成功した彼は、私が呆然としているのを確かめると、にやっと笑って、すぐにふいとあっちを向き、「いたか?」なんて律己くんに声をかけている。


「いなかった? じゃあ別の方角なのかもな」


律己くんは残念そうにため息をつき、もう帰ろうと言うように有馬さんの手を引いて立ち上がった。

ふたり並んで、建物のほうへ少し行ってから、思い出したように有馬さんが足を止め、ついていきそびれ、ぽつんと座ったままだった私を振り返る。


「どうしたんです、行きましょうよ」


どうしたんです、じゃないでしょう。

平然と、いかにも含みがありそうに眉を上げてみせる有馬さんに、してやられた悔しさと腹立たしさで、顔がどんどん熱くなってくる。

置いていかれるのも癪で、急いで立ち上がって飛び跳ねながらふたりのほうへ向かった。

追いつく直前、有馬さんは手を差し伸べるふりをして、ぐいと私を引っ張り。

よろけて彼にぶつかった私の手を、身体の陰で握った。



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