クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「はい」

「すみません」

「有馬さん」


私は彼の表情を少しでも探りたくて、顔を覗き込んだ。


「これを言って、有馬さんが喜ぶのか、わからないんですけど」


目がちらっとこちらを見る。


「私、有馬さんは立派にお父さんをしてらっしゃると思います。大きくなったらこうなりたい、とか、この人がいれば全部大丈夫、とか。律己くんにとって、今の有馬さんは、そう思える存在です」


沈黙する彼の肩に手を置いた。

Tシャツの下から、日差しで温まった肌の熱さを感じる。


「そのことだけは、信じていてください。律己くんのためにも」


有馬さんはじっとうつむいたまま。しばらくそうしていて、やがてぼそっと私のひざを指さして言った。


「ジャージ破けるほどすっ転ぶって、すごいですね」

「ほっといてください!」


だしぬけに恥ずかしい事故を持ち出され、慌てて手でひざをかくした。転んだ拍子に穴が開き、ついでに擦りむき、さっき病院で先生が気の毒そうに薬を塗ってガーゼを当ててくれた。

有馬さんが楽しそうに笑う。


「驚きました、鈍くさくて」

「体育は昔から苦手です」

「意外。いつもてきぱきしてるから、もっとしゃきしゃき動ける人なのかと」

「もうその話よくないですか?」


顔を赤らめた私を笑い、有馬さんが腰を上げ、律己くんのそばへ行った。

ちょうど食べ終わったアイスの袋を取り上げて、べたべたした手を持て余していた律己くんに、ポケットからウェットティッシュを出して渡す。

隣に座り、もう一枚で口の周りを拭いてあげる姿に、自然と笑みが漏れた。
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