クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
お互い、同じ県内に代々の家があり、会おうと思えば会える距離にいたので、中間地点の神社を探し、そこで会うことにした。


「有馬さんと会ったら、どんな反応するかなあ、うちの母…」

「ゲーム会社なんてやくざな商売、しかも子持ち! みたいな感じですかね」


あり得る、いや、そうでもないな。


「たぶん、そういうありきたりな姑像は彼女の好むところではないので、むしろ"世間一般的には褒められない相手を許容する寛大な私"にシフトすると思います」

「面白いなあ」

「私も他人事で笑いたいです」


思わずすねた口調になってしまい、はっと隣を見た。彼は優しく微笑んでいて、私の手をコートのポケットから引っ張り出し、握った。


「俺、他人事だから言ってるんじゃないですよ」

「ごめんなさい…」

「先生は、お母さんを好きになれない自分が嫌なんですね」


私は答えられず、うつむいて歩く。

そう。そして嫌いなものは嫌いと毅然としていられない自分も嫌だし、こんなことで自己嫌悪させる母にもまた、ぶつけてやりたいもやもやが湧く。

自己愛を実現する手段として愛を振りまく母。それを嫌悪しておきながら一方で、ふりですら愛情を示せない、狭量な自分に苛立つ。救いのない循環。


「こんなんで保育士なんてやってるの、笑っちゃいますよね」

「出た。エリカ先生って、自分のことになるとうじうじと自虐的ですよね」


うっ…。


「親だからって、無理に好きになる必要ないでしょ。親子だってそれぞれ別の人間です。相性が悪いことだってあります」

「それでもやっぱり、親子なんです。私は母の影響下からは抜けられない。子は親を映す鏡です。私のどこかに、あの母がいるんです。そう思うと怖くて」

「それは、逆だなあ」


じゃがバターや焼き芋といった、夏祭りとはまた異なる風情の出店たちを、どこから行こうか品定めしているみたいに眺めながら、有馬さんが言った。


「逆?」

「エリカ先生がお母さんを映してるなら、俺には素敵なお母さんしか想像できないですよ」
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