クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「でもねえ、最近たまに、脚がすごく痛いの。先生に言ったら成長痛だって。無理するとよくないから、様子を見てメンバーからは外すかもって。同じ状況の子がもうひとりいて、切ないねって言ってるとこ」


靴を履き終えて立ち上がり、振り返ったら、お父さんが目をまん丸にしていた。


「成長痛」

「お父さんだってあったでしょ?」

「あった…気がするけど、忘れたなあ、もう」


なにもない上のほうを見て、なにか考えている。それからふと僕を見た。


「お前、俺よりでかくなりそうだな」


たぶん口がすべったんだ。

顔に"やべ"と書いて、お父さんは口をつぐんだ。

そうだね、"本当のお父さん"はすごく背が高いから、あのお父さんに似たら僕は、大人になったら、目の前にいるお父さんを追い越すかもしれない。

僕とお父さんの目が合う。お父さんの心の汗が見えるみたいだと思った。

こういうときこそ子供のたしなみを発動させるときだ。僕はまた気づかないふりをして、「行ってきます」とランドセルを背負い直した。


「気をつけてな」

「律己くん、行ってらっしゃい、練習頑張ってね」


卓己を抱いたお母さんも寝室から出てきた。寝起きの悪い卓己は、まだ甘えてお母さんの肩に頭を乗せてうとうとしている。


「うん、頑張る」


手を振るふたりに振り返して、玄関を出た。

ふりをして、ドアの隙間からちょっと覗いた。

「親は学校や教師を敬う態度を崩さない。子供が板挟みになります」とかなんとか、お父さんが叱られている。

素直に「はい」と反省するお父さんの、こめかみのあたりを、急にお母さんが背伸びしてくんくんと嗅いだ。


「煙草?」

「えっ」


お父さんがぎくっとして、そのへんを手で押さえた。


「別にいいでしょ、会社だし、減らしてるし、一応」


急に言い訳を始めたお父さんに、お母さんはちょっと呆れた顔をして、それから笑い出す。卓己を優しく揺すりながら、首を振った。


「安心したの。本当に忙しいと、吸わなくなっちゃうから。吸えるくらい余裕ができたんだなって」


お父さんが、困った顔をする。これは、お母さんのことを好きなときの顔だ。

わかる、好きな子がかわいいとき、なんでか困るの、わかる。

お母さんがにこっと笑って、お父さんがそこに向かって身を屈めたので、僕はドアをそっと閉めた。
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