クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「え、腰、また?」

「あの、私、この後なにか、食べられるものとか、持ってきます」

「えっ、いや、いいです、俺、動けるんで、なんとか」


そういえば、具合は…と思ってつい顔を上げたら、目が合ってしまった。肩でドアを押さえている彼の顔は、予想外に近くにあった。

だけどそれよりも、伝わってくる体温の高さにぎょっとした。


「かなり熱があるみたいですね」

「なんか、急に出て」

「熱以外に症状は? 風邪っぽいとか発疹とか」

「いや…ひたすらだるいのと、まあ熱のせいで、めまいとか…あの、あんまり近づかないでもらっていいですか、俺、風呂入ってないんで」


私の視線を遮るように、手でガードする。

だるい、めまい、と聞いて、あっとひらめいた。


「有馬さん、りんご病かも…」

「…なんですか、それ?」

「今、園で流行ってるんです、たいてい子供のうちにかかって免疫ができるんですけど、免疫を持っていなければ大人もかかります」


そして大人の症状は、子供よりはるかに重い。たぶんこれから数日間の高熱、全身の発疹、ひどい関節痛がやってくる。

そう伝えると、「マジすか…」と有馬さんの顔が暗くなった。


「あ、律己、やばいかな」

「いえ、律己くんは去年やってます、なので伝染りません」

「へえ…」


父親から恨めしげな視線をもらって、律己くんがもじもじする。ううん、いいよ、きみはちっとも悪くないよ。

ふと有馬さんの足元に目が行った。ドアのヒンジ部分に、子供が指を挟むのを防止するためのカバーが取り付けてある。

私の視線を追って、それを見た彼が、照れくさそうに笑った。


「まあ、ぼちぼち、こんな感じで」

「篤史!」
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