阿倍黎次は目立たない。(12/10更新)
「……分かった。でも、どうやって評価なんて変えるんだ?」
「それは……その、注目されるようなことをするのよ」

それができているなら平凡ではない、とツッコミを入れかけたその時、校舎の方から声がした。

「なるほどね、劣等種か」

金野だった。声がいやに耳につく。金野は俺達の方へ歩きながら言った。

「確かに、君が何か特異な才能を持ってたら、今頃君は授業を受けられていたはずだ。だが君は平凡であるが故に、授業を受けるという選択肢を失ってしまった。大きな痛手だと思わないかい?」
「……」

正直、金野の言葉は正しかった。反論の余地もない。

「……あと、日野君」
「えっ?」
「君、今日から我が社のCM担当を外れてもらうから」
「ちょっと、いきなりどういうこと!?」
「本当は昨晩決めたことだったんだけどね、連絡が遅れて申し訳ない。君のマネージャーにも話はつけてあるはずだよ」

金野が腕時計を見る。高そうに金光りしている。

「すまない、そろそろ時間だ。新しいCM担当の女優さんと打ち合わせがあるからね。……あっ、僕はきちんと先生に許可を取ったから。僕は違うよ、君達とは」

金野が踵を返し、歩いていく。俺達はそれをただ見ているしかなかった。

「……阿倍くん」
「何だ?」
「……アイツに痛い目見させよう。私は復讐のために。阿倍くんは金野からの評価のために」
「……ああ」

教室を見上げる。無機質な建物の中に埋もれて、隣の部屋との見分けがまるでつかなかった。
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