after5はお手っ


鞄を持って玄関に向かうヒロトくんの背中を眺め、こんなに広かったんだ、と思った。
子犬らしからぬ幅に感心していると、その真下ににゅっとしっぽが生えた。それくらい、満面の笑みを向けられる。

「明日もご飯作りに来ます」
「あ、ありがとう!楽しみだな」
「食べたい物あったらLINEください。材料買っていきますから」
「駄目だよ、そこまでさせられない。私が用意しておくよ」

とはいうものの、材料だけ買っておいて何もせずに待つのも、女性としてどうなんだろう。
でも学生のヒロトくんにお金を出させるなんて絶対にダメだと考えていると、じっと私を見つめる視線に気づいた。

「・・じゃあ、迎えに行ってもいいですか?」
「え?」
「それで、一緒に買い物して帰りましょう」

何でもないことのように言うけど、ヒロトくんの瞳は少し揺れていた。
ご主人様の顔色を窺う子犬の表情に、痺れに似た感覚が走る。

「うん。・・待ってる」

帰りを待って迎えに来る犬なんて、まさに忠犬の象徴だ。
こんなことまでさせていいんだろうかと思う反面、どこまでも私を慕ってくれる純粋な姿勢に胸が熱くなった。

「17時過ぎには出れると思う」
「わかりました。近場で待ってますね」

嬉しそうに頷くヒロトくんの頭をもう一度撫でると、今夜3回目の鳴き声が返ってきた。


愛しく可愛いこの後輩が、after5になると私の犬に変わる。
ただの犬で終わるのか、それ以上の何かに変化するのか――まだ、不明。

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