マドンナリリーの花言葉


大広間では、すでに楽団の生演奏が流れている。
今日の夜会は形式上は舞踏会だ。広間の中央に踊りに興じる男女が集い、部屋をぐるりとめぐるように置かれたソファでは、出会いを求める男女が談笑している。

フリードは顔見知りの伯爵子息に呼ばれ、男性たちの話の輪に入っている。ディルクはそこから少し離れた壁際に立ち、フリードとエミーリアたちの両方から目を離さぬようせわしなく視線を動かしていた。

エミーリアは恐縮しまくっているローゼのために、入り口にほど近いソファを選んで腰かけた。ローゼは身をすぼめるようにして、ソファの端にちょこんと座る。それでも可憐な美しさは隠せるものでもない。若い男性貴族の視線は必ずこのソファの上を通過している。


「ふふ。すっごい視線を感じるわ。さすがローゼ」

「からかわないでくださいませ、エミーリア様」

「いいじゃない。綺麗だって言われているのよ、嬉しくない?」


にこやかに微笑みかけるエミーリアを、ローゼは少しばかり恨みがましく見つめた。


「……好きな人からでないなら嬉しくありません。それに」


ローゼは先ほどから妙な視線を感じていた。
興味とか好意とは違う、嫌な感覚を伴う視線。それは意外にも、ホールの反対側にいる、壮年の貴族から向けられている。


「あの方はどなたですか?」


エミーリアに耳打ちすると、彼女は視線を巡らせ男を探した。エミーリアは最初、若い男性を中心に探していたようで、なかなかローゼのいう人物を当ててはくれなかった。「父親くらいの年代の方です」というとようやく思い当たったようで、教えてくれた。
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