マドンナリリーの花言葉
そんな風に屋敷がようやく落ち着きを取り戻したある日の夜、ローゼの部屋の扉がノックされた。
「どなたですか?」
「俺だ」
声の主はディルクだ。既に夜着姿だったローゼはケープを羽織って迎えに出る。
「ディルク、どうしました?」
「あ、すまない。もう寝るところだったのか?」
「いいえ。どうぞお入りください」
「ああ。悪いな」
ローゼの部屋はベッドとチェストがあるだけの至ってシンプルなものだ。大きめのチェストは中には服を収納でき、ふたを閉めれば腰をかけられる万能家具だ。農家出身である彼女にとっては個室を与えられるだけで十分贅沢であり、室内は物の少ない状態のままだ。
招き入れたもののベッドに座らせるのも気がひけて、ローゼはディルクにチェストを勧める。ディルクは一瞬戸惑いつつそこに腰かけ、置き場に迷うにように足を組んだ。
「お茶でも入れましょうか。お湯を貰ってきます」
「いや、いい。君もその恰好ではどこにも行けないだろう」
「上に羽織れば平気です」
「そういえば以前も熱を出したままフラフラしていたな。今後は禁止だ。俺以外にそんなに無防備な姿をさらすなよ」
はあ、とため息をついたままディルクが言う。ローゼはドキドキしながら彼の隣に座った。
「やきもち……焼いてくれるんですか? ディルク」
「なぜ焼かれないと思うのか、そっちのほうを聞きたいな」
まさかの切り返しに、ローゼの顔が真っ赤になる。ディルクはもう少しからかおうと思ったが、あまりに可愛らしい困り顔に、すぐに白旗を上げた。