マドンナリリーの花言葉



 結局、パウラを引き取る建前を作るためだけに、ディルクとローゼの結婚式はあわただしく行われた。ローゼの家族とクレムラート伯爵家の面々だけを呼んだ形だけの式だ。

そして、結婚式を済ませたにもかかわらずディルクとローゼは今をもってクレムラート家にいる。かつてのドーレ男爵領はディルクの管理下に入っているが、屋敷がまだ建設中なのだ。

従者ではなくなったとはいえ、ディルクはフリードの側近という立場を離れる気はない。以前と変わらずフリードの傍にいて、新しい従者にフリードの癖や世話をするポイントを教え込んでいる。

ローゼは侍女の仕事はやめたものの、エミーリアとパウラに習って奥方教育の真っ最中だ。
なにせ、ダンスひとつ踊れないのだから、教え込むことはたくさんある。

エミーリアは自身もお転婆なため、礼儀作法にうるさくないが、パウラは違った。立ち居振る舞い、使用人への目配りなど、スパルタとも思える勢いで教え込んではローゼを半泣きにさせている。


そんなある日、遅めの朝食を終え、フリードをはじめとする屋敷の人間が集まりくつろいでいたときだ。
執事があわただしく駆けてきて、そわそわしながらパウラに小さな包みを差し出した。


「あの、パウラ様に……だそうです」

「またクラウス様からの贈り物ですか?」


クラウスの怒涛のプレゼント攻撃に、フリードは思わず冷やかした。

パウラも箱を受け取り、笑ってしまう。昨日ドレスを送って来たばかりだ。一緒に運んでこれば一度で済むのに……と思えば彼の部下に申し訳ない気持ちも湧いてくる。


< 225 / 255 >

この作品をシェア

pagetop