マドンナリリーの花言葉

 人は結局、与えられた場所で生きられるようにできている。そこが幸福な場所であろうと、不幸な場所であろうと。

パウラは、ずっとそう思って生きてきた。思わなければ、生きていけなかったから。
人と比べてはいけない。自分の不幸に耐えられなくなるから。
ただ心を無にして、目の前の相手が望むように動くことだけが、生き抜くための道だったのだ。





パウラが東の宮に来て三日が経つ。

宮の主人である第二王子クラウスが、女性用の部屋を整えるよう指示をだしたとき、使用人たちはついに王子が結婚を考えたのだと喜び、浮かれた。
ところが連れてこられた女性は、アンドロシュ子爵に軟禁されていたという噂の、三十歳を超えた女性だったのだ。

期待を裏切られた使用人たちは、どこか腫れ物に触るような態度でパウラに接し、とげとげしい視線すら向けていた。
ただ幸いと言っていいのか分からないが、パウラは視力が良くない。近視の状態に近いので、はっきり見える範囲は狭く、遠巻きに視線を送ってくる使用人たちの不満な顔もしっかり判別できなかった。
それでも、パウラは彼らの不満をやすやすと感じることができたのだが。

しかし、彼女はそれをやり過ごす術もすでに身に着けていた。

パウラは約十八年もの間、アンドロシュ子爵の人形として生きてきたのだ。表面上心を無に見せるのも、内面の世界に籠って時をやり過ごすのもお手のものだ。

結局パウラが彼らの反感に逆らわず、ただひたすらに耐え忍んだことで、使用人の中でのパウラの印象は変わってきた。
薄幸で可憐な娘を思わせる見た目に、使用人たちはみなパウラの本当の年齢も忘れ、不幸な身の上ながら気品を失わない気高さに、心惹かれるようになったのだ。

たった三日での使用人たちの変貌にクラウスは満足し、早速結婚向けての行動を開始した。
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