マドンナリリーの花言葉




「パウラ様、お召し替えの時間ですわ」

「ええ。ありがとう。ヘルマ」


ヘルマはパウラ付きとなった侍女だ。一度結婚し、離婚して再び王宮勤めを始めたという彼女は、侍女としてはベテランの部類で、年齢も三十歳と近く、この東の宮に知り合いのいないパウラにとってはありがたい存在となっていた。

東の宮は、王宮のほど近くにあるものの、敷地も別だ。芸術方面に造形の深い第二王子のための居城として建てられているため、大広間はまるで円形劇場のように広く、庭園には迷路状の薔薇園が作られている。
パウラから見ると不思議なほど派手で非効率なつくりだが、クラウスが好んで呼び寄せる芸術家はこの宮を絶賛するので、きっと素晴らしいのだろう。


「今日は、王宮にご挨拶に向かうそうです。クラウス様からドレスの指定がありました」

「王宮に……? そう」


いよいよか、とパウラは思う。

クラウスは自分を妃にするためにごり押しするつもりらしいが、パウラは自分が第二王子妃として快く迎えてもらえるなどとは思っていない。
無垢で美しいというのも大事な要件だが、王族に嫁ぐことに最も大切なのは、健康な体と若さだ。大きな病気もしないのだから健康ではあるが、パウラの目は見えてはいると言っても全てを鮮明に見通せるわけではないし、若くないことは言わずもがなだ。産めたとしてあとひとりかふたり。それも早急に妊娠しなければ無理だ。

現在、王太子であるフェリクスは結婚しているものの子供がいない。本人が病弱なこともあり、国民や一部の重臣には、いずれはクラウスを王にと望んでいる節もないではない。
だから、今後子供が望めるかどうかあやふやな自分では、反対されるのは必須だとパウラは考えている。
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