マドンナリリーの花言葉
「君はどこの出身で……」
ギュンターが問いかけたのと同時に、エミーリアが彼の手を引っ張り、ローゼから引き離す。
「お兄様! 見損なったわ。いくらローゼが綺麗だからと言っても、浮気はだめよ。あんなに優しくて素敵なお義姉さまがいるっていうのに」
どうやら、エミーリアはギュンターがメイドの物色をしていると思ったらしい。ギュンターは慌てて目をむいた。
「エミーリア、誤解だ。俺は別にそういう意味で彼女に名前を聞いたわけでは」
「どうだか! 男の人の考えなんて分かりませんわ」
「お前のフリード殿はそんなことするかい? しないだろう。俺だってそうだよ」
「そりゃフリードはしないけど。……お兄様は分からないじゃない!」
さらっといったエミーリアに、今度は半ば本気でギュンターが怒り出す。
「失礼なことを言うな! 俺がコルネリア以外に目移りするわけがないだろう」
兄妹喧嘩の勃発だ。
呆気にとられて何も言えなくなっているローゼを助けてくれたのはディルクだ。
「ここは一度下がりなさい」と耳打ちされ、ほっとして頭を下げる。
そのまま歩き出した時、「待って」とギュンターから腕を握られて、ローゼは硬直する。
ギュンターはローゼをまじまじと見つめる。
整った顔は何を考えているのかさっぱりわからなくて、ローゼの不安はどんどん募っていく。
「お兄様!」と眉を吊り上げるエミーリアをギュンターは諫めた。
「事情があるんだ。しばらく彼女と話させてくれないか」
ローゼの腕は離されることはなく、いったいどうしたらいいものかと、困りきってしまった。