マドンナリリーの花言葉


 ディルクが応接室に入ると、対面のソファの片側にフリード、もう片側にエミーリアとギュンターという並びで座っていた。
フリードはディルクを見つめてホッとしたように立ち上がる。


「すまないな。飲み物を貰えるか」

「はい」

「だからね。お兄様にどんな理由があろうと、お義姉さまはローゼを連れて帰ったら悲しむわ。お義姉さまはただでさえ遠くのベレ領からお嫁にきて寂しいのよ。分かってる?」


任せると言った割に、いまだにくどくどと兄に絡んでいるのはエミーリアだ。
フリードに促され、ディルクはそっとブランデーの水割りを全員の席の前に置いた。


「お兄様がお義姉さまを大切にしてるのはわかるけど、もう少しお友達を作ってあげたほうが……」


ぐいっと水割りをあおったエミーリアは、びっくりしたように瞬きをした。


「これ、お酒?」

「夜長の話だからな」


フリードが答えるとエミーリアは恨めし気に睨む。


「フリード、謀ったわね」

「君の気持ちは分かったけど、俺にも少し話をさせてもらわないとね。こっちにおいで、肩を貸そう」

「……ずるいわ」


エミーリアがお酒に弱いのはどうも本当らしく、あっという間に頬は赤く染まり、目がとろんとしてくる。
ふらりと立ち上がり、フリードの隣に座ったエミーリアは、しばらくすると瞼の重さに耐えきれなくなったように目を閉じる。
すぐに寝息に変わる奥方を、フリードはいとおし気に見つめた。
< 67 / 255 >

この作品をシェア

pagetop