会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「会長が倒れ、総代に呼ばれて社に来た日、エレベーターに乗ろうとして、溝にコレの車輪が引っ掛かった」


会長代行は酸素ボンベの入ったキャリーバックを片手で転がしてみせた。


「昼休みも終了間近の時間だったのだろう。『早くしろ』そんな冷たい視線を感じて焦って、溝にはまった車輪はなかなか外れなかった」


会長代行は思い出すように淡々と話す。


「数10秒だったのか数分だったのか……車輪を外すのに手間取っていたら、女子社員が手を貸してくれた」


会長代行の私をじっと見つめる視線に胸が熱い。


「エレベーターに乗り合わせた社員に『お待たせしてすみません』と声をかけ、床に膝をつき、溝に指を入れ、彼女は車輪を持ち上げてくれた」


「あっ」と声が漏れそうになり、歯を食いしばる。


「俺は……総代との待ち合わせ時間が間近で急いでいて、一言『ありがとう』と言っただけだった」
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