会長代行、貴方の心を全部わたしにください
私は涙が零れそうになるのを懸命に堪えた。


「膝も指も汚れながら、会釈を返した女子社員の顔が俺は忘れられなかった。……履歴書のファイルにその女子社員を見つけた。それが芹沢、君だった」


会長代行の目を見つめ返し、真っ直ぐに見つめる瞳と穏やかな声に、会長代行の顔が涙に滲んだ。


「机の上の1輪挿しは誰が生けているのか、朝1番に出社してくるのは誰か、エレベーターの開閉ボタンを押し、出入りの気配りしているのは誰か……俺は半月、観て君を選んだ」


私の目から、堪えていた涙が頬を伝う。


「確かに君は書類を作成させればミスだらけ、スケジュール管理も半人前で、仕事ができるとは言えない」


そんなにはっきり言わなくても、と思う。


「仕事はできなきゃ覚えればいい。経験を積めばいい。……だが、何気ない気配りが自然にできる、それは君の強味だと思わないか?」
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