幸田、内緒だからな!
「どういう事かね? 君はなぜ知花さんの事を呼び捨てにする?」
「すみません。気が動転してしまいました。社長が大切にされてるお嬢さんですから、わたしも同じように心配で」
「直紀はどうした」
「ただ今、ホテルの支配人様と会議をなさっておられまして、それが終わるまでは連絡しないようにと秘書の方におっしゃっておられたようで、奥様からの伝言を代わりに聞いたわたくしがとりあえず様子を見に来た次第でございます」

 お父さんの事、正直に話した方がいいよね。
 いつかバレるかもしれない。
 そうなる前に話しておいた方がいい。

「会長、お話があります」
「何だ?」
「あの、リビングでお話ししても宜しいでしょうか?」
「わかった」

 わたしとお父さんが並んで座る。
 その前の席に、同じように会長とお母さんが座る。

「正直に言うね」

 父に向かってそう言うと、父も覚悟を決めたように頷いた。

「実は、ここにいる幸田正男は、わたしの父なんです」
「何だって?」
「両親は、わたしが小学生の時に離婚しました。わたしは母の姓を名乗り、母とふたりで生きて来ました。父とは別れてから一度も会っていなかったのですが、社長が運転手の募集をした際に、偶然ではありましたが面接を受けに来たんです」
「その事は、直紀は知っているのか?」
「いえ、話しておりません」
「それじゃ、きちんと面接によって合格したわけだな?」
「はい」
「それじゃ、信頼出来る人なんだろう。直紀はああ見えても、人を見る目は確かだからな。でも、その後なぜ言わなかった?」
「社長がわたしの父だと知ったら、きっとやりにくくなると思ったからです。それに、社内にもどんな噂が流れるか」
「まあ、そうだな。正しい判断だったと思う」
「さて、どのタイミングであの子に言うかだが、その前に幸田さん。あなたに報告したい事があります」
「はい」
「実は、怪我と言うのはあいつを呼び寄せる嘘だ。家内がいたずらしたくてそう言っただけだ」
「そうでしたか」
「で、ここからが大事な報告。実は、知花さんと直紀の間に子どもが出来ました」
「知花、それは本当か?」
「本当です」
「それから今日までここで花嫁修業もしてもらいました。素直で、思いやりのある娘さんだ。是非、藤堂家の嫁として迎え入れたい」
「会長……」
「構いませんか?」
「もちろんです。わたしも今更父親面は出来ないんですが、それでもこの子が可愛いし、幸せになって欲しいと思っています。社長なら、この子を幸せにしてくれるはずです。どうか、この子を宜しくお願い致します」

 そう言って父は、頭を下げた。
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