幸田、内緒だからな!
 私服に着替え外に出る。
 なぜかそこに、幸田さんの車が停まっていた。

「知花、送るよ」
「ちょっと、下の名前で言うのやめてっていったでしょ! それに結構です。公私混同は嫌だから」

 ここから先はプライベートタイム。
 一社員の為に、社長専属の運転手を使うわけにはいかない。
 しかも、こんな会社の前で乗るところを他の社員に見られたら、要らぬ噂を立てられるかもしれない。

「話があるんだ」
「話?」
「まあ、社長に関する事だから、仕事の一環みたいなもんだ」

 そんな理由で納得していいのかどうか迷ったけれど、社長の事って言われて聞かないわけにはいかない気がした。

「わかりました」

 わたしは幸田さんの車に乗り込むと、すぐに出してくれるように頼んだ。
 車が走り出した時、何人かの社員がこちらを見ていた。
 
 車は何も言わなくてもわたしのアパートに向かっている。
 この人が、その家を忘れる事はない。

「で、社長の話って?」
「まあそう急ぐなって。こうして2人になるのは久しぶりだろ」
「出来たら2人っきりにはなりたくないんだけどね」
「ツレナイなぁ」
「あなたが悪いんでしょ!」
「まあな」
「で、新しい女とは上手くいってるの?」
「いや、あいつとは別れた」
「だったら今は一人?」
「そうだ」
「自業自得ね」
「ああ。本当にバカだったよ」
「今更言っても遅いわ。いい女を捨てた罰よ」
「そうだな」

 車は、家の近くの公園で停まった。
 そこの駐車場に入る。

「知花、こないだ会長と社長を車に乗せたんだ」
「会長も?」

 会長というのはもちろん直紀のお父様の事だ。
 最近会社に顔を見せる事もあまりなくなっていた。
 一体いつお見えになったんだろう。
 社長のスケジュールは完璧に把握しているつもりだった。
 それなのに、会長と一緒だった事は知らなかった。

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