私と結婚してください。



「なに飲む?」


「いらねぇ」


部屋に入った途端、そんなことを聞いてくる希依。
なんなんだよ。お前なんでそんな機嫌いいんだよ。

腹立つわ。


「あの…、なんか機嫌悪い?」


そんなとんちんかんな質問にさえ、イラっとする。


「別に悪くねぇよ
お前補習で出された課題まだだろ。遊んでんじゃねーよ」


「別に遊んでないし、頼くんに教わってたんだよ。
だからもう終わってるよ」


「…あ、そ」


あー、俺なんでこんなイライラしてんだよくそ
自分で自分にも腹が立つし
こいつの機嫌のよさにも腹がたつ。

機嫌がいいのに腹立つってなんなんだよ。自分でも意味不明だわ


つーか、お前のパートナーは俺だろ。
なんで頼に聞くんだよ。俺がいながら。
俺の教え方じゃ不満なのかよ、くそ


「……やっぱ機嫌悪いね」


「だから悪くねぇ」


「悪いよ」


「悪くねぇって言ってんだろが
しつけぇよ」


とにかくすべてがイライラする俺は、希依に背中を向けたままソファへ座った。

希依を見ててイライラする。
……かといって、いなくなってもイライラするんだけど


「……凰成」


さっきまでドアのところいた希依の声がすぐ後ろに聞こえ、しかも俺の肩に手が置かれる。


「ごめんね」


ちょっと潮トーンな希依の声が俺の心にスン、と入り込む。たったそれだけ、なのにちょっとだけ俺の心が洗われるっつーか……なんか、今まで感じたことない感覚…


だから俺も振り返っちゃうわけだけど


「希依…っ、は?」


振り返った俺の頬に刺さる希依の人差し指。
なんなんだよ、おい。

この指はなんなんだよ。


「ふっ…、はは
これに引っかかる高校生、初めて見たんだけど!
こんなのに引っかかるのなんて小学生までだよ?」


凰成って意外と鈍いんだね、なんて楽しそうに笑うこいつに、また俺の機嫌を悪くする。


「へぇ…それは珍しいもんを見れてよかったな」


その指、へし折ってやろうかって勢いで、希依の人差し指を曲がってはいけない方向に曲げてやる。


「いっ、痛い痛い!ごめんって!!」


「二度とこんなことすんじゃねぇ」


「はーい…」


……でも、こいつが楽しそうに笑ったり
本気で痛がって謝ってきたり

こいつのいろんな表情を見てると、俺の顔までほころんでくる。


< 198 / 419 >

この作品をシェア

pagetop