私と結婚してください。
「なに飲む?」
「いらねぇ」
部屋に入った途端、そんなことを聞いてくる希依。
なんなんだよ。お前なんでそんな機嫌いいんだよ。
腹立つわ。
「あの…、なんか機嫌悪い?」
そんなとんちんかんな質問にさえ、イラっとする。
「別に悪くねぇよ
お前補習で出された課題まだだろ。遊んでんじゃねーよ」
「別に遊んでないし、頼くんに教わってたんだよ。
だからもう終わってるよ」
「…あ、そ」
あー、俺なんでこんなイライラしてんだよくそ
自分で自分にも腹が立つし
こいつの機嫌のよさにも腹がたつ。
機嫌がいいのに腹立つってなんなんだよ。自分でも意味不明だわ
つーか、お前のパートナーは俺だろ。
なんで頼に聞くんだよ。俺がいながら。
俺の教え方じゃ不満なのかよ、くそ
「……やっぱ機嫌悪いね」
「だから悪くねぇ」
「悪いよ」
「悪くねぇって言ってんだろが
しつけぇよ」
とにかくすべてがイライラする俺は、希依に背中を向けたままソファへ座った。
希依を見ててイライラする。
……かといって、いなくなってもイライラするんだけど
「……凰成」
さっきまでドアのところいた希依の声がすぐ後ろに聞こえ、しかも俺の肩に手が置かれる。
「ごめんね」
ちょっと潮トーンな希依の声が俺の心にスン、と入り込む。たったそれだけ、なのにちょっとだけ俺の心が洗われるっつーか……なんか、今まで感じたことない感覚…
だから俺も振り返っちゃうわけだけど
「希依…っ、は?」
振り返った俺の頬に刺さる希依の人差し指。
なんなんだよ、おい。
この指はなんなんだよ。
「ふっ…、はは
これに引っかかる高校生、初めて見たんだけど!
こんなのに引っかかるのなんて小学生までだよ?」
凰成って意外と鈍いんだね、なんて楽しそうに笑うこいつに、また俺の機嫌を悪くする。
「へぇ…それは珍しいもんを見れてよかったな」
その指、へし折ってやろうかって勢いで、希依の人差し指を曲がってはいけない方向に曲げてやる。
「いっ、痛い痛い!ごめんって!!」
「二度とこんなことすんじゃねぇ」
「はーい…」
……でも、こいつが楽しそうに笑ったり
本気で痛がって謝ってきたり
こいつのいろんな表情を見てると、俺の顔までほころんでくる。