私と結婚してください。



「あぁ、うん。あの…」


そういう伊織くんはすっかり真面目な顔をしてて、何ヵ月間も一緒にいたのに、初めて見る表情をしていた。


「…希依ちゃんさ、玲子と凰成が付き合ってたの、知ってる?」

「あー、うん
ついこの前玲子さんから聞いた…」

「そか。
…なんかさ、玲子って小さい頃からずっと凰成のことが好きでさ
別れるって決めてからも好きで

俺と付き合うようになったのも、それで凰成翻弄させてやればいいじゃん、なんて俺が言ったからでさ

それからダラダラと付き合って、婚約までしてんだけど

そんなことしてきたから、俺ずっと不安でさ」

「不安?」

「…玲子はまだ凰成のこと好きなんじゃないか、とか
凰成も玲子を…とかさ。
でもこれをあの3人に相談することもできなくて

別れてからもあの2人は相変わらず仲良いし…俺と付き合ってんのに凰成が玲子を送るのだって当たり前になってたし

俺それ結構気にしてたんだけど
…でも、凰成が希依ちゃんを好きになってから気づいた。
凰成は恋するとこんなに不器用になるんだなって。
逆に玲子にはそういうことなんもなくて、真っ正面から大事にできたのは
恋愛感情がなかったからなんだろうなって、思ってさ。

それに凰成と希依ちゃんのことを優しく見守る玲子見てたら、なんか吹っ切れた。
そんなん気にしてるの、俺だけだったんだなって」



へへっ、と笑う伊織くんはすごく優しい表情をしていた。
いつもはあんなガキなのに、玲子さんのことになるとこんなに大人になるんだなって…



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