私と結婚してください。



「えー、今日お集りの皆さん
いきなり、素人の演奏で申し訳ありません」


俺がそういうと、希依はムッとして俺をにらんできた。
まぁ、俺に言われたくないわな、素人なんて。


「本当は1人1人挨拶に回る予定でしたが、ここで言わせていただきます。
この素人のくせに出しゃばって演奏したこの人、俺の彼女です」


俺がこういえば、今度はすっげぇ驚いた顔を見せる。
こうやっていちいち表情が変わるのも、面白くて仕方ねぇんだよな


「今日は皆さまに公表するべく連れてきました。
まだお互い高校生で常識もなく、無礼の数々をお許しください。
これからもご指導、よろしくお願いします」


凰成はそれだけいって、ステージを降りた。


「俺帰るわ」

「おい、後片付けは」

「父さんに任せた。
希依、行くぞ」

「えっ、ちょっと!」


ここで残ったら、また大人たちに捕まる。
ここはもう言い逃げに限る。

あとは全部頼んだぞ、父さん。



俺はそれだけいって、さっさと会場を出た。


「帰る。車を頼む」


とりあえず、車が来るのを待つか…


「ね、ねぇ
帰っちゃっていいの?
ってかあそこであんなこと言って大丈夫?」


希依はそんなことを俺に聞いてくる。
…普通に、大丈夫なわけないだろ。


「…ったく、普通はお前が俺に合わせるんだぞ。
なんで俺がお前に合わせてんだよ」

「え、え?」

「…希依がステージにたつから、変な噂が立つ前に俺の彼女ってしちゃっとけば変なこと言われないだろ」

「あ、ごめん!勝手なことして…」


希依は俺の発言にめちゃくちゃ落ち込んだ。
別に、落ち込ませるつもりはなかったんだけどさ


「…いや、
希依のおかげで会場が明るくなったよ」

「え、本当?」

「あぁ。
だからボレロのあとはみんな拍手してたんだろ」

「あ、あぁ…」


あの拍手はすごかった。
演奏が終わって拍手が起きたのは初めてだった。

希依のあの楽しそうな表情に、素人とは思えない演奏…
それだけじゃない、なにか。

それが、いつもよりも感動を与えたんだよな。


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