ねぇ、顔を見せてよ
叫ぶ同期とオレ
「あの…伏見くん…」

「何?」

「好きなんです!」

「は?オレ社内恋愛は面倒でさその……「その眼鏡、
どちらで購入したんですか??すっごく好きなんです!!」

昼休みも終わりかけた時、廊下で突然話掛けてきたのは、経理部の山多紅子(やまだこうこ)


「山が多いと書いて山多ですが、ヤマかけではなく仕事はきっちりやりたいと思います!」

と、確か訳の分からない自己紹介をしていた同期だ

(告白なら断ろうと思ったが…眼鏡?)

「あ…ぁ、コレ?オレの友達がやってるイイモノ堂ってお店のだよ…」

「…え、え、あの有名なイイモノ堂!!
あのデザイナーが天才と呼ばれる河野岳さんのですか?」

「知ってんだ?」

「はい!伏見くん、河野岳のお友達なんですね?すごいなぁ」

正直、意外だった

山多は四角い太い黒縁眼鏡に短い黒髪
前髪だけは長くって眼鏡以外の顔がよく見えない
秘かにあれは暗幕なんじゃあって言われている

(あだ名はまんま『暗幕』)

そんな山多が知る人ぞ知る人気のデザイン雑貨店イイモノ堂を知っているなんて失礼だけど意外だった

「はい!存じております!
デザインが斬新で、商品が美しいんですよね!私、かなりファンなんですよ?…あ!一番好きなのはコレです」

カサッと山多が首に下げたネームカードから抜き
出したのは青い羽根だった

「ナニコレ?羽根」

「はい!2色ペンです!
これを購入してからすっかりイイモノ堂のファンなんですが
…この眼鏡は見たことがないです…
むむ、まだ甘かったですね、チェックが…」

真剣に山多はオレの眼鏡を覗いている

(変わってんなぁ…)


そう思いながら山多を観察していると
チラチラと暗幕の奥に大きな目が見えた

まぁ…この眼鏡は河野くんに特別に作らせた物だから
知らなくて当たり前だ

(お店には並ばない商品だからね…)

世界で1つだけの製品なのだから

「まぁ…知らな…「あぁぁぁ!」

またもや言いかけると山多が叫んだ

「…何だよ…」

「もうお昼休み終わりますよね?お時間頂いてしまって申し訳ありませんでした伏見くん、有り難うございました」

深々と頭を下げた山多

(礼儀正しいけどさ、なんかバタバタしてんな)

「あ、あぁ…お疲れさま」

くるりと踵を返し早足で歩いていく小柄な後ろ姿をなんとなく見送ってしまった

ガクガクとぎこちない歩き方に

(なんか…ゼンマイの人形みてぇ)

可笑しくてクスッと笑うと、ぷにっとほっぺをつつかれた

「みーちゃった。伏見やーらしー」

「うっせ。厭らしくもなんとも無いわ」

グターっと肩に腕をのせて来たのは同じく同期の康太

「…今の暗幕ちゃんでしょ?伏見、好み変わったのかよー?」

「ちげーわ。山多から話かけられたんだよ、気になることがあったみたいで…それ聞かれてただけ」

そういうと、康太はウンウンと頷いた

「そーだよね、伏見っちは受付のマリアちゃん狙いだもんね」

(マリアか…)

実は康太には話していなかったが二人きりで先週食事に行ったのだ…





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