愛すべき、藤井。

生徒には一切知らされていなかったけれど、『本当にみんな、俺の肉のためによく頑張ってくれたな〜』と涙を流す担任は、絶対知っていたんだと思う。


決して先生の肉ではないよ。


と、冷静に心の中でツッコミを入れながらも『おっしゃ!今度みんなで焼肉行こうな〜!』と言う先生の言葉に頷く私はきっといい顔で笑ってたと思う。



「藤井、歌入れなよ」


そして、今。


私達は打ち上げと題して4人でカラオケに来ている。いつものメンツ、いつもの店。


いつもと違うのは、



「あー、夏乃先入れていいよ」


隣でスマホとにらめっこしている藤井だけ。



いつもなら、人の番でも乱入してきて、中盤から踊り狂って、これでもかってくらい暴れる藤井は、帰る頃には喉ガッサガサのくせに


今日はまだ1曲も歌ってない。


それどころか、



ずーーっと、スマホ画面ばっかり見てる。
画面を通して香織ちゃんを見ているような気がして、隣にいる私より、画面の向こうの香織ちゃんがいいって言われた気がして……



「さっきの子からLINE?」


どうしようもなく、イライラする。
柄にもなく、泣きそうになる。



「……あー。……うん」



自分で聞いたくせに、聞いたことを後悔してる。
見たくない。聞きたくない。……何も知りたくない。

だけど、気になる。




やっぱり、私はワガママだ。


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