ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…でも、どうすることもできないじゃない。アタシは男に生まれたんだし、女にその場で生まれ変わることなんてできないし」
「…珠理、」
「だから、アタシは出来るだけ女の子らしくしようって思ったの。身なりも、言葉も、行動も、すべて」
「———…」
震えていた手に、またギュッと力が入った。
声は、落ち着いているけれど、その中には少しだけ、珠理の怒りも垣間見える。
「…毎日、頑張って女の子らしく振舞ってたわ。サユリはケーキを作るのが趣味だったから、それをアタシも覚えたら喜んでくれるかもって思って、一緒に何度も練習したの」
「…」
「…でも、アタシが完全に今のアタシになった頃には、学校からも孤立してた。だから、学校も行かないで、ずっとサユリのそばにいたの」
…卒業式も出ないで、高学年の時はずっとサユリさんと家にいたと、珠理は話してくれた。
わたしは、思わず目を閉じた。静かに、目の前の温もりを感じながら。
——…ねぇ、珠理。
あなたが今、そうやって女性らしく振舞っているのも、本当は…
今のあなたの裏には、そんなことが隠れていたんだね。
「…それでも、やっぱりアタシは男だから。優しい時もあったけど、サユリはもう限界だったんでしょうね。きっと精神的な病にもかかっていたんだろうし、言葉の暴力は最後まで終わることはなかったわ」
「………それで、今のハニーブロッサムに…?」
「…そう。中学に上がる時を境に、日本でお店を経営していた叔父さんが、アタシを引き取ってくれたの」
「…」
そして、サユリさんは、精神的な病にかかっていたことが判明して、実家のあるアメリカの方に戻っていった。
…珠理は、最後まで淡々と、何とも思っていないような顔で、そう話し続けてくれていた。
でも、わたしに回されていた手は、相変わらず力が入っていて、爪の跡が握りしめている手のひらについてしまうんじゃないかと思うほど。