ヒミツにふれて、ふれさせて。


『リョウちゃん、おはよう』


…震える親指で、今日も同じ文章をつくる。返信、くれるといいな。


「…めごちゃん?大丈夫?さっきからボーッとしてるけど」

「えっ」


スマホとにらめっこをしていたら、近海くんが心配そうに顔をのぞいていた。

ああっと、いけない。早く終わらせなきゃ。あと3問も残ってる。


「あは、大丈夫大丈夫。ちょっとボーッとしてた。ごめん」

「…」


リョウちゃんのことを必死に頭の中から除外して、目の前に並べられた三角関数の問題に、必死に噛みつく。

数学きらいだけど、今はこうやって問題を解いてでも、考えないようにしなきゃ。じゃないと、また暗くなってしまう。

返信が来ないスマホが、恨めしく思ってしまう。


「…めごちゃんってさ、自分が辛いのとか我慢してることを隠すの、ものすごく下手だよね」

「………」


ようやくあと1問というところまできたところで、近海くんはポツリとつぶやいた。


「…どういうこと?」


隠すのが下手って。何を、隠すのが下手だっていうの。


「彼氏さんと、最近上手くいってないんでしょ。それを隠すのが下手すぎ。そりゃあ、珠理も心配になるってやつですよ」

「…」


どくん、と、心臓が痛く響いた。まるで、穴をぽっかりと開けられたような、そんな感覚。

触られたくない傷を触られてしまった、そんな感覚。


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