ヒミツにふれて、ふれさせて。
「そっかあ。じゃあ入る隙なんてねーな」
はは、と、近海くんが笑う。入る隙って、何…。何が、入る隙?
「…どういうこと?」
「ん?なんでもねーよ。そんなに好きなら仕方ねーなって話!それよりも、そんな落ち込む顔するくらいなら、ちゃんと瀬名ちゃんとか珠理に話して聞いてもらいなよ。じゃないとめごちゃんが潰れちまうわ」
近海くんは、もう一度笑って、最後の問題を解き終えた。「よっしゃできた」と笑う彼は嬉しそうで、誘ってみてよかったと素直に思う。
わたしも三角関数の問題すべてを解き終えて、机の上に散らばったペンやノートを片付ける。
…そうこうしているうちに、金色だった光は、少しずつ高く登り始めて、柔らかい太陽の光に変わっていた。
もう、みんなが登校してくる時間だ。
「あっ、じゃあわたし、そろそろクラスに戻るね。きっとみんな来ると思うし」
「おー。そろそろ珠理来ると思うけど、会わなくていいの?」
「えっ、珠理?いいよ別に」
今ここで珠理に会ったからって、何を話すわけでもない。何を聞いてほしいわけでもない。むしろ、今はあまり会いたくない。
リョウちゃんと上手くいっていない時ほど、あのオネェは勘が鋭いから。
…こんな不安、きっと一瞬で見抜かれてしまう。
「あ、じゃあ、わたしはこれで…」
机を戻して、鞄を持って立ち上がった。バイバイと近海くんに手を振って、教室を出ようとした。
…その時だった。
「———…めご?」
ドンッと、勢いよくぶつかってしまった。壁のように感じたそれは、背の高い男性の胸元で。
キャラメル色のカーディガンが目に入ったから、その視線を上にあげると、そこには見慣れた顔があった。