副社長のいきなり求婚宣言!?
 降って湧いた疑問は、白のブラウスの襟元をきっちりと締めた心もとない胸の間に提げる社員証が解決してくれる。

 対する目の前の彼はというと……


 長谷川建設取締役副社長

 長谷川永人(ハセガワエイト) 34歳 独身


 斜め分けに撫でつけられた清潔感溢れる黒髪は、奇抜にならない程度のツーブロック。

 ダークグレーのスーツが、きちっと身体に合わせているとわかるシルエットを浮かばせる。

 落ち着いた藍地に薄いブルーのピンストライプのネクタイと、ジャケットと同色のベストをきちっと着こなしているところは、品の高さをうかがわせる。

 社員証など携えていなくても、彼に関する情報は、中途採用で入社した一年二ヶ月ほど前から存じ上げておりましたが……


「わ、私が、何か粗相でも……?」


 いつの間にか、エレベーターの狭い部屋が、イケメン副社長様と二人きりの密室になっていた。

 怯える私に構わず、長谷川副社長は静かに呼吸を整えて、下降する箱の中、少し目尻の下がった瞳で真っ直ぐに私を見つめてきた。
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