副社長のいきなり求婚宣言!?
 私はまた、今まで通り庶務課の日陰に戻って、まったりとした何もない日常を送るんだ。

 そしてその毎日の中に、……副社長はいない。

 本来の遠い天上の世界に帰る副社長とは、もうかかわり合いになることもないんだろう。

 秘密の内線電話をしたり、社内で遠く離れた場所から視線を交わしたり。警備に急かされるまで社に残ることも、……副社長室での、内緒のキスも。

 夢のような時間が、本当に夢になって散っていく。

 せめて、色褪せないように心に留めておこうと思うけど、それを色濃く思い出すたびに、現実の虚しさに胸を痛めるんだろう。


「なんでまた泣いてんだよ」


 見上げていた副社長はしなりと眉を下げて、そっと呟く。

 困ったような表情が滲んで見えなくなると、大きな掌が私の頬を包んできた。

 このまま離れていってしまうんだと思って膨らみかけた淋しさは、掌の温かさが吸い取ってくれた。


「副、社長……」

「うん?」


 小さく呟くと、優しい声音が返事をしてくれる。

 そんな些細なことが、私の胸をたちまちにときめきでいっぱいに膨らませる。


 離れたくない。

 ずっとそばにいたい。

 私、副社長のこと、こんなに好きなのに。
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