ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「ねぇ……私の事、ご両親に話してる?」

 その瞬間、蒼佑の表情が明らかに曇った。ほんの数秒、黙って。はっきりと口にした。

「――話してない」
「そうよね……」

 別にそのことで、蒼佑をどうこう言うつもりはない。
 実際自分は、蒼佑になんの返事もしていないのだから。

「でも俺は――」
「話さなくていいわ」
「葵……!」

 なにか誤解をしていると思ったのかもしれない。蒼佑が慌てて口を開こうとしたが。

「ううん。皮肉で言っているんじゃないの」

 葵は首を振った。

「確かに私は、八年前に門前払いをされたけれど、それは元々おじいさまからの申し出だったわけだし……ご両親があなたの将来を一番に考えるのも、当たり前。べつに根に持ってなんかいない」

 その言葉に嘘はなにひとつなかった。

「さ、おそばを食べましょう。すっごく美味しいのに、のびちゃう」

 葵は笑って、また箸を手に取る。

 蒼佑がなにか言いたげなのはわかっていたが、それには気が付かないふりをした。
 そして自分の心に、確かに芽生え始めている気持ちににも――。

< 192 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop