ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 お昼を食べた後は、蒼佑が淹れてくれたお茶を飲みながら、応接間のソファーで本を読んで過ごすことにした。

 この家には、蒼佑が学生の頃読んでいた本が、そのまま積んであった。最近の作家のものはなく、古典ばかりである。

(なんだか贅沢だなぁ……)

 開け放ったガラス戸からはそよそよと涼しい風が吹き込んできて、広大な庭園から、土と緑の匂いを運んでくる。古い文庫本のページをめくっていると、東京にいるとはとても思えない、静けさがあった。

「葵、二、三日して体の痛みがとれたら、どこかの温泉に行こうか」
「――えっ?」

 のんびりしすぎて、少しうとうとしていた葵は、蒼佑の発言で、一瞬で目が覚めた。

「お、温泉……?? なんで!?」
「湯治だよ」
「――あなたが行きたいんじゃなくて?」

 すると蒼佑は、ふふっと笑ってひとり用のソファから立ち上がると、葵が横たわっているソファーの端に腰を下ろして、葵を見下ろした。

「君の体のためだ。間違いなく」

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