溺れてはいけない恋
「座っていいかな?」

俺は床に敷いてある分厚い絨毯の上であぐらをかいた。

多良は向かい合う位置で横座りし

切ない眼差しを俺によこした。

「とにかく上手くいかない。」

「もう剛英は懲らしめなくてもいいの?」

俺は彼女のシャクにさわる言い方に

むしろ気分が良かった。

「どうにもならない。」

「私はあきらめません。」

「家を出たばかりであきらめる訳にはいかない気持ちはわかる。」

「ずいぶんな物言いですわね。一輝さん、言っておきますけど、私を見くびらない方がよろしいですわよ。」

メソメソしているかと思い

わざと俺が尻込みしているような印象を与えて正解だ。

「策があるのか?」

「あります。」

「まさか?」

「勿論一輝さんにも協力していただきます。」

「おいおい、それだけは勘弁してほしい。」

「ご自分では策がないと言うから私が提案を。」

「既成事実だけはダメだよ。」

「あら、私はそんなことは一言も。」

「それならいいが。」

多良は今度は軽蔑の眼差しで俺を射ぬいたが

俺は単に安堵しただけだ。

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