眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。

 身長何センチなんだろうと、横目で見ていたら目が吊り上がるのが分かった。

急に不機嫌になったのか口をきつく閉じる。

……私、今、何か言った?

「あのう?」

「そういえばドラマのあらすじを教えてもらう約束だったね。話してくれる?」
「え、は、はい」

 しどろもどろになりつつもドラマのあらすじを話す。素直になれないOLと同量のオフィスラブで、コメディタッチなんだけど眞井さんの顔は険しい。

そんなに怖い顔で聞くような、真面目な話ではないのに。


そのギャップは一体何なんだろう。


「ここです。ここで降ろしてください」

マンションの前で車が止まると、さっきまで険しい顔をしていた眞井さんが少し胸を撫でおろしたような気がする。

車中、ずっと相槌ばかりで会話が楽しくなかったのかもしれない。
いや、会話が気まずかったのかも。

「ありがとうございました。明日からよろしくお願いします」

「ああ。君はいつか、俺の今日の紳士的な行動に感謝するがいい」

「はい? とても眞井さんは紳士でした。ありがとうございます」

「――……っ」

なぜか眞井さんは頭が痛いのか頭を押さえ、首を振っていた。


「その花束は――俺の気持ちだ」

「は。お二人のやさしさ、大切にします」

敬礼すると、眞井さんが生温かい視線をくれた。

「君は子供っぽいというか、何も知らなくて真っすぐすぎるな」

「そうですか?」

「可愛いから、許す。おやすみ」

 手招きされ、眞井さんの方へ近づくともっと手招きされ、身体を傾ける。

すると手が伸ばされた。驚いて体が強張ったけれど伸ばされた手は頭をぽんぽんと二回撫でただけだった。

「明日は、忙しい。早く寝なさい」


子どもに言い聞かせるような優しい声。
思わず撫でられた頭を押さえて赤面してしまう。


柔らかい声、仕草。そして眼鏡を外すときの甘い雰囲気。

眞井さんのギャップは本当に反則だと思った。
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