眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
流石内面乙女なだけある。私にこっそり見て回って、それで家に帰って一緒に決めようとしてくれたんだ。
「ウエディングドレスは俺も見に行く」
「あはは。分かってます」
「……ほら、また敬語」
「だって仕事中は敬語だし、なかなか家ですぐには」
真っ赤になって言い訳を並べていくが彼は、クスクスと笑ったあとスイッチが入るように顔が蕩けていく。
彼がネクタイを緩め腕時計を外す。
腕時計がテーブルに置かれたのち、眼鏡をかけて、私の名前を呼ぶ。
「おいで、紗良」
それが、彼の甘ったるい溺愛のサイン。
「ただいまのキスがまだだったろ」
眼鏡をかけたら完全にオフになるのか彼の言葉だけじゃなく全身から私を甘えさせようとしてくる。
ワックスで固めていた前髪をくしゃくしゃに掻き、戻す。
家で、私だけに見せてくれる彼の姿。
仕事中のみとれてしまう真面目な顔も、張り詰めたピアノ線みたいで好きだけど、こんな風な素の彼を独り占めに出来る今が最高に幸せかもしれない。
なので私も鞄を放りだし、彼に抱き着く。
そして優しく唇をなぞられた後、屈んできた彼の香水の匂いに包まれながらキスをする。
眼鏡が偶に当たるキスは、最高に甘くて大好きだ。
――明日、私は『眞井紗良』になる。
そのままソファに沈みながら、旦那さまになってくれる彼の体重を受け止めながら幸せを噛み締めたのだった。
Fin


