今から一つ嘘をつくけど


「……本当に、早くしてくださいね『しずくん』」


 でも私はまだまだ素直になれなくて、こんな変化球を返してしまう。『しずくん』の顔が、パッと嬉しそうに笑った。そして傍に立っていた私の腕を引き、自分の腕の中へ抱き寄せる。


「……嘘つきめ」


 そう言いながら私の唇に自分のそれを重ねた。




 ――――私はまだまだ、嘘つきだ。

 だけど、彼はそれを大きな愛で包んでくれる。でもそれに甘えすぎないで、少しずつ私も変わろうと思っているんだ。

 だから今はまだ嘘つきだけど、もう少し待っててね……




 優しいキスをしてから、彼はパッと私から離れると、今度は本気で支度を始めてくれた。本気でやると早い。

 二人ともすっかり支度を終えると、手を繋いで部屋を出た。彼の手をぎゅっと握ると、同じように握り返してくれる。それが嬉しくて。


「行くぞ、晃! このままじゃ兄貴たちに本気で怒られる!」


 私たちは手を繋いだまま駐車場へ走り出す。

 今日の空は青く晴れ渡り、空気さえもキラキラしているような気がした。地球上の何もかもが全力で、姉と晴夏さんを祝福してくれている、そんなふうに感じる。

 今日はきっと素敵な結婚式になる。私は彼に手を引かれて走りながら、そんな事を考えていた。















【おわり】
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