今から一つ嘘をつくけど


「ちょ……! 諏訪さん、ふざけてないで本当に……!」

「――――晃、そろそろ俺の事、『諏訪さん』じゃなくて名前で呼んでくれない? 昔みたいに『しずくん』でもいいから。じゃないと、支度しない」


 はあああああ?! 何で今、そんな事言い出すの?!

 やっぱり全然意味が分からない。でも彼は本気みたいだ。悪戯っ子みたいな顔でソファに座って私を見ている。


「こんな時に何言ってるんですか! そんなの何でもいいじゃないですか!」

「良くない! 今日は兄貴たちの結婚式だろ?! 兄貴たちは家族になるんだ。だから俺たちも何か変わりたい!」


 ……理由になっているような、なっていないような。

 でも本当に、そんな事をいっている場合じゃないのに!

 時計を見ると、もう出ないと本当に遅刻してしまう時間だ。それに諏訪さんは私が名前で呼ばないと動かなそうだけど……

 はあ、と私は大きくため息をついた。


「――――絶対、呼びません。そんな子供みたいな事言ってないで、早く支度してください」


 若干、冷ややかな声でそう返すと、彼も大きなため息をついてからやっと立ち上がってくれた。

 全く、手がかかる……

 でも諏訪さんは最近、私にこうやって少し甘えてくれるようになった。いつも私が甘えさせられてばかりだから、それが何だか嬉しくもある。




< 124 / 126 >

この作品をシェア

pagetop