今から一つ嘘をつくけど


「部屋に入って来た時気が付いたんだけど。あんまり見つめるから、寝込みを襲おうとしてるのかと思って、待っちゃった」


 待っちゃった、じゃないよ! こっちは寝てると思ってたから言ったのに!

 ああ、もう、この人は!


「見つめてません! それに襲いません!!」


 恥ずかしくてちょっとムキになってそう言い返すと、諏訪さんは楽し気に笑った。そして……


「良かった、昨夜より元気になってる」


 それは優しい声だった。


 ……もしかして心配、してくれてたのかな。


 何だか急に申し訳なくなってしまった。


「もう、大丈夫です。本当に、いろいろご面倒かけてすみませんでした」


 改めてお礼を言ってぺこりと頭を下げた。いつの間にか立ち上がり私の前に来た諏訪さんは、その頭をポンポンと優しく叩く。


「昨夜泣いてた理由、聞いてもいいか?」


 ……正直あまり話したくは無かったけど。

 ここまでしてくれた諏訪さんには、きっと知る権利があると思う。もし自分だったらやっぱり知りたいと思うし。


「……赤ちゃんが出来たんです、姉に」

「えっ?!」

「ちゃんと喜んで、祝福してあげなきゃいけない事なのに……私が馬鹿だったんです」


 自分の勝手な恋心が邪魔をして、それが出来なかった。

 でも姉に赤ちゃんが出来た事を声に出したら不思議と、昨夜より胸は痛まなかった。それよりも、自分の馬鹿さ加減が身に染みて。

 ……今度姉と晴夏さんに、ちゃんとお祝いの物買って届けよう。




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