天使の傷跡
課長が大阪へと異動になったのは私が入社して半年にも満たない頃だった。
有名人だった彼のことは知っていたけれど、私との直接の接点はほぼ皆無だったし、課も違う一新入社員のことなど向こうは知らないと思っていた。
けれど総務部で事務職員として働いていた私に転機が訪れたのは今から一年前のこと。
…そう。課長が本社に戻ってきた同じタイミングで、私は営業事務として異動を命じられたのだ。事務とはいえまさか営業に回されるなんて全く寝耳に水で、最初は何かの間違いじゃないかと思った。
けれどそれは紛れもない事実で、彼の部下としての生活がスタートしたのだった。
噂通り、…ううん、違う。実物の彼は、伝わってくる話よりもずっとずっと仕事の出来る、非の打ち所のない完璧な上司だった。
決して妥協することなく質の高い仕事をこなし、一方で部下の育成も怠らない。
たとえ相手がペーペーだろうと容赦なく高い要求をする。けれど決して一方的ではなく、悩み藻掻きながらも、最後には自信をつけて一回り成長させる。
それをやってのけるのこそが日下部課長なのだ。