天使の傷跡
そんな彼の人望が厚くなるのは極自然なことで、飴と鞭を匠に使い分ける課長は部下からも慕われている。
その一方でそんな彼を快く思わない人達も存在する。
どの世界にも妬みや羨望というものは蔓延しているもので、何とかして彼を失脚させようとする人間が一部にいるのも、ある意味では宿命と言えるのだろう。
そんな妨害があることなどおくびにも出さず、いつだって凜と前だけを見ている彼は、私にとっても例外なく憧れの上司だった。
…そんな人がまさか、私にプロポーズをしてくるなんて。
そんなことを一体どこの誰が予測できたというのだろう。
正直、何かの罰ゲームでもさせられてるんじゃないかとすら思った。
けれど部下相手にそんな馬鹿げたことをする上司がどこにいると言うのだ。
ましてや引く手数多のもてっぷりを見せながらも、私が入社してからただの一度も浮いた話を聞いたことのない課長が、わざわざ部下をからかうためだけにそんな冗談を言うはずがない。
そして何よりも、彼の真剣な眼差しを見ればそこに偽りがないことは明白だった。この一年間見てきた彼は、間違っても異性に対してそんな思わせぶりな態度をとるような人ではなかったから。