チェックメイト
「小林?」

予想外な場所で声をかけられて私は顔を上げた。

目があったのは私の前ではなく隣の受け付けに並んでいた人物、なんとそれは。

「…藤原先輩?」

かなり驚いたけど場所が場所なだけに最小限の声量で留めておいた。

思わず釘付けになりそうだったけど自分の仕事を思い出して慌てて目の前の参列者に集中する。

ちょうど芳名帳を書き終えたところだ。

「ありがとうございます。こちらをお持ちください。」

両手で丁寧に渡すとゆっくり頭を下げる。

今日は幼なじみの結婚式、受付を頼まれ二つ返事で快諾し今ここにいる。

私の大切な親友の晴れ舞台だ、誇らしい気持ちで私は受付に立ち参列者の方々をお迎えしていたのだけど。

「まさかだな。」

私の心の声を代弁するように横で芳名帳を記入する先輩が呟いた。

藤原先輩は同じ会社の上司にあたり新入社員の時は教育係になってくれた人だ。

とにかく仕事ができて上司部下からの信頼も厚い、将来を期待された有能なSEがここにいるとは。

「受付お疲れさん。」

「…ありがとうございます。」

「ヘマすんなよ?」

「しませんよ!」

労いの言葉をもらい反射的に会釈をすると新郎側の芳名帳が目に入った。

“藤原一樹”

「きれいな字ですね。」

誰に聞いて欲しい訳でもなく呟いた言葉は拾われていたらしい。

当たり前だろ。

そんな声が聞こえてきそうな笑みを浮かべて先輩は人が賑わう方へ去っていった。

< 2 / 33 >

この作品をシェア

pagetop