赤い糸
 美智子は夕日に照らされる線路ぎわ、自転車をおす彼の広い背中を思い出していた。
 卒業証書の入った筒をにぎりしめ、白いシャツが見えなくなるまでずっと。

 にぎっていた指先の冷たさが蘇ってくるようだった。


 あの時、どうして彼を追いかけなかったのだろう。
 あの時、どうして「好きです」って彼に言わなかったのだろう。


 美智子は急におかしくなり、体を小さくゆらし、声を出さずに笑った。
 
 夫が起きてしまうかも知れない。


 ばかな私。


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