星のみぞ知る
「……お雪、本当のことを言ってもいい?」
「もちろん」
「…行きたくない」
思ったより、声が震えた。
こんなことで泣くわけない、って思ってたけど、やっぱり、キツい。
「分かっていますよ、それくらい」
「…ふふ、そうよね」
「正直な話、豊臣でなければ、どこでも良かったのでしょう?」
「まあね。豊臣でさえなければ、どこへでも行ってやるわ」
「…帰蝶は言葉が悪いですから…ああ失礼、言葉が強いですから、皆勘違いしてしまうのですよ」
「お雪、誤魔化そうとしないで」
「はいはい、ごめんなさいね」
「雑すぎる!!」
「とにかく、帰蝶は言葉が強いから、気も強いのだと勘違いされやすいのでしょう。本当は、誰より繊細で、傷つきやすいのに」
「……繊細なんかじゃない。言葉も悪いし、思ったことはすぐ口に出してしまうし、ガサツだし、それに…」
「それに、誰よりも優しいじゃないですか」
お雪が、言葉を被せてきた。
「お市様が身罷られたとき、一番悲しんだのは、あなたでしたよ。それは、お市様にお世話になったから、だけではないはず。知り合いが死んだ時、帰蝶は誰よりも悲しむのだから」
だから、あなたは誰よりも、優しい。
「ーーお雪」
「はい?」
「ありがとう」
「私は事実を言ったまでですよ」
「…ふふっ、そう言われるとそんな気がしてきたわ」
「そうでしょう?」
「うん。…ね、お雪」
「はい?」
「私、あなたに会えて良かっ「ダメ」
お雪が、私の口に人差し指を当てた。
「え…なんで??」
「そういうことを言うと、もう会えないみたいで…嫌なのです、私は。帰蝶とは、例え離れ離れになっても、いつかまた巡り会いたいのです」
「!……うん。私も、そう思う」
「だから、そういうことは、言わないで」
「分かった。…でも、これだけは言わせて?もう坂本城には帰ってこれないかもしれないけど…私にとって、ここでの8年間は、何よりも幸せだった。藤吉郎のことは嫌いだけど、この城に来たことは、後悔してないわ」
お雪は、少し寂しそうに、「よかった」と呟いた。
その目に、僅かばかりの涙が浮かんでいたことは、お雪自身と、帰蝶しか知り得ないことである。
