ヒグラシ
小学生の頃は毎日が新鮮で、何もかも遊びの対象だった。その辺に落ちているきれいな小石を集めることに夢中になったり、郵便屋のバイクを見かけては何度も走って追いかけたりしたこともある。


そして、森の中には古い神社がある。緩やかなカーブを過ぎれば、やがて石段が見えてきた。


中学生の頃はお転婆もやや控えめになり、少しずつ大人への階段を上がっていった、はずだ。周りの目を気にし出したり、反抗期を迎えたりしたのもその頃。


(懐かしいな)


私は石段の前に立ち、見上げた。ちょうど三十段あるその先に、所々朱色が剥げた鳥居が見える。
その朱色を見たとき、中学時代最後の、そして最高の思い出がフラッシュバックした。


『佳奈のことが好き』


いつもは冗談を言い合っていたのに、あの日あの鳥居をくぐるまで、彼が一切口を開かなかったこと。
今思えば笑ってしまうくらい真っ赤だったけれど、それまで見たことのないほど真剣な顔をして、深呼吸を繰り返していたこと。

その時手に持っていた卒業証書の入った黒い筒を落としてしまうほど、驚いたし嬉しかったこと。


ーーきっと死ぬまで褪せることのない、大切な思い出だ。

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