プレシャス~社長と偽りの蜜月~
私は知り合いの運転していた車に同乗して事故に遭遇した。

運転していた知り合いの男性は死亡し、私だけが生き残ったのだ。

一切の記憶を失ってしまった私は当時の事故の状況が分からず、警察にも迷惑を掛けてしまった。

25年間培われた沢山の記憶。中には思い出したくない出来事もあるだろう。

でも、そんな私を何も言わず受け止めてくれた雅人と過ごした記憶だけは思い出したかった。


『別に思い出す必要はない。これから先…二人で沢山想い出を作って行けばいい』と
雅人は言うが。


脳内を真っ白にして自分が誰かもわからなかった言えしれない不安につぶされそうになった私の手を握り、「俺は君の婚約者だ」と言って私の名前を教えてくれた雅人の優しい声と手の温もりは忘れない。


チャペルで式を挙げ、披露宴は隣接された自然の光が降り注ぐ明るいガーデン付きの開放感溢れる宴会会場で行われた。


招待客を迎えるウェイルカムボードは私と雅人で考えたお手製。


友達だと言われても、記憶喪失の私は首を傾げるばかり。

私と雅人の結婚を祝福する為に披露宴に出席してくれた友達を不愉快にさせているかもしれないと思うと罪の意識に駆られ、顔から笑顔が消えた。
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