恋の人、愛の人。
「あ゙ぁ、なんで運転中なんだ。…抱きしめたい、梨薫…」
「無理ですね」
あれ…ここは?車は駐車場に入れられた。
「ちょっと寄り道するから」
「は、い」
寄り道?制服姿のまま、ブティックに連れ込まれた。
「彼女に似合うワンピースと靴、適当に合わせてくれますか」
え、え。帰るだけですよね?しかも早く帰りたいって言ってましたよね?
「…ホテルに行くから」
…え。囁かれた。…え゙。あ。流石にこの格好ではって事ね。だから…会社で少し待ってくれたら良かっただけなのに。部長が急くから…。
「ご飯ですか?」
「食べに行く」
「はい。でも、こんな…」
「いいから。出された物、片っ端から試着しなさい。迅速に」
「…は、い」
こういう時は部長なんだから…。試着室に入れられた。
何着目だったか、着て見せた時だ。
「ん、それがいい、それにしよう。着て帰るから、お願いします」
トップ部分はブラックのノースリーブ、ウエストから下のスカート部分は小さ目のハウンドトゥースチェック柄のワンピースだった。
畏まりましたと言って制服とパンプスはブティックの袋に丁寧に入れられた。…私は〇リティ〇ーマンか…。
綺麗なヒールも既に用意されていた。
「では行こうか」
店を出て今度は正真正銘、ホテルだ。
ホテルの前に車を停めエスコートされた。
部長はフロントをチラッと見てエレベーターに向かった。
前は和食だったから今日は何だろう。イタリアンとか?あまり畏まったのは遠慮したいけど…。今日は人が多いかも知れない。
乗っていたエレベーターが到着した。開いた。…え?客室?
「行こうか、こっちだ」
「え、あの、部長…」
手を引かれていた。…早い。凄く急いでるみたい。身体はやっとついて行っているような状態だ。部屋で食べるってこと?
「誰にも邪魔されたくない。今から部屋で食べるんだ。ご飯も、梨薫も」
「あ゙。あの、まだ…」
嘘…。まだつき合う事を決めたばっかり…。ここは、会社に居る時に既に用意していたんだ。こういう事は…無理を押してでも本当にスマートに熟す…。私…。
「ん?フロントで一緒に手続きしたらバレてしまうからね。まだ早いとか言って帰られるかも知れない。日中段取りをしておいたんだ。鍵だって既に…ほら」
スーツの内ポケットからキーを取り出した。
「さあ、入って」
鍵を通してドアを開けた。どうぞ、と先に入室させられた。
「嘘……広、い。ここ…部長?…」
「ん、そういう部屋だ」
後ろから声が聞こえた。
「さあ、もっと中に入って」
「は、い」
「コース料理は時間で頼んでおいたから、もうセットされている。…どっちからにする?料理と俺」
「ぁ……おまかせで…」
「解った。…梨薫…ちょっと来て」
横目で目の前に広がる夜景を見ながら連れて行かれたのはバスルームだった。部長、あっちだこっちだと、凄く急いてる。
…あ、凄い…現実に見たのは初めて…。
「本当は五日前予約だと言われたが、花は俺が手配するからと言ってして貰った。99本分の花びら。…どうかな?」
バスタブに薔薇が浮かんでいた。水面はほぼ埋め尽くされていた。
「一緒に入ろうか。まだ…無理かな…」
あ、…。腰に腕を回され首筋にキスを落とされた。