あの日みた月を君も
電車に揺られながら、アユミのことを考えた。

最後に会ってからもう8年の月日が流れている。

どんな生き方をして、どんな風に変わっているんだろう。

会いたくてしょうがないのに、変わってしまったかもしれないアユミと会うことは少し恐い気もした。

結婚もし、きっと恋愛もしただろう。

以前よりも人生経験が豊かになったアユミは今の僕を見てどう思うのか。

大学の時と変わらず、あのクリンとした目で笑ってくれるだろうか。

そして、僕も今の僕をきちんとアユミにさらけ出すことができるんだろうか。

嘘いつわりなく。


電車は大学の最寄り駅についた。

学生らしき数名が電車から降りていく。

僕もあわてて、その学生達に続いた。

懐かしい空気が僕の体の中に入っていく。

少しずつ自分があの頃に戻って行くような錯覚に陥る。

アユミと待ち合わせている駅の改札に急いだ。

改札を出たところに、女性の後ろ姿が見えた。

ベージュのコートを羽織ったその女性の髪は下ろされていた。

アユミはいつも髪をくくっていたから、アユミではなさそうだ。

でも、あの背格好は、アユミととても似ているような気がした。

女性の後ろ姿が近づく毎に胸の鼓動が高鳴っていく。

すっと女性の前に出て、ゆっくりと振り返った。
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