あの日みた月を君も
そして、手袋をはめた両手で口を塞ぎながら空を見上げる。

「冷たい日の月って、とても美しいわ。今日もきれい。」

アユミの目線をたどると、いつもより輝きをましている月が真上に上がっていた。

雲一つない夜空。

町の明かりで星はあまり見えないけれど、月がその夜空に圧倒的な存在感を示していた。

「アユミは、月が好きだね。いつも夜空を見上げてる気がする。」

「そうね。気づいたらいつも見てるかも。」

アユミはくすくすと笑った。

「満月ってさ、人を狂わすっていうよね。じっと見ていたら妙な気持ちになるらしいよ、人間は。」

「そうなの?」

「以前、何かの本で読んだことがある。狼男もさ、結局そこから来てるんじゃない?満月の日には殺人も多いって。」

「いやだ、恐い。」

アユミは目を丸くして口を塞いだ。

「仮説だろうけどね。」

少し怖がってるアユミもかわいかった。

もっと怖がらせてやろうかと意地悪な気持ちになったけれど、やめておいた。

「満月の夜はなるべく月を見上げないようにするわ。」

アユミは前を向いて、真面目な顔で言った。

思わずそんな生真面目なアユミに吹き出す。

「何?どうして笑うのよ。」

頬を膨らませてアユミが僕の腕を押しやった。

アユミが僕の腕に触れた感触にドキッとする。

手袋越しだったけれど、とても小さくて柔らかい手だと思った。

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