あの日みた月を君も
15分後が待ち遠しくて、レポートを書く集中力はもうない。

すぐに机の上を片づけ始めた。

でも、アユミはぎりぎりまで机の上にはりついている。

一生懸命なアユミも目がとても好きだった。

思わず、じっと見つめてしまう。

ふいにアユミが視線を上げた。

僕と目が合って、慌てて目を逸らす。

「ごめん。もう15分過ぎちゃうね。」

「いいよ。きりのいいところまでやったら?」

「きりのいいところはまだまだ先だから、今日はここで切り上げちゃうわ。」

アユミはえくぼを作って笑った。

アユミの笑顔がまぶしくて思わず自分の手元に視線を落とす。

慌ただしく帰る用意をするアユミがいじらしくて、いつまでも見ていたいような気がした。

「お待たせ。」

アユミはコートを羽織り、大きめのバッグを肩から提げて僕の方へ走ってきた。

研究室の鍵を閉める。

薄暗い校舎の廊下を二人で歩いた。

電気がまだ灯っている部屋も点々と並んでいる。

皆、必死だ。

年が明けたらすぐに卒論を提出しなければならないから。

外に出ると、冷たい風が僕たちの横をすり抜けていった。

「寒いね。」

アユミはそういいながら鞄から手袋を取り出して両手にはめた。
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