あの日みた月を君も
通路を挟んで横の席に誰かが座った。

机の上の名前を盗み見る。

『大山ヒロ』

と書かれてあった。

そんな名前全然知らない。

そのまま少し視線を上げる。

前髪の長い色の白い男子だった。

キュッと結んだ口は、しゃべりかけんなっていう意志表示か?

こんな男子、見たことないわ。

かなり大きな塾に通ってたけど、多分知らない。

誰か知ってる人を一人でも捜そうとするのは人間の寂しい性分なのかもしれないわね。

頬杖をついて、担任の先生がなにやら板書しているのをぼんやりと眺めた。

書き終わった先生が生徒達の方に向き直る。

「初めまして!僕は但馬シンジと言います。この学校に来て3年目だ。これから一年よろしく!」

3年目だったらそこそこ若い方ね。

んなことどうでもいいけど。

但馬先生は、さっき自分で書いた黒板の字を指して続けた。

「今から、自己紹介をしてもらいたい。自分の名前、出身中学、趣味は最低言ってくれ。皆も早く顔と名前を覚えてくれよー。エレベーターで上がってきた奴らとは違う貴重なメンバー達だ。」

自己紹介ね。

面倒くさ。

しかもこの担任、えらくエレベーターで上がってきた生徒達に批判的な言い方するじゃない。

大人の事情かしらね。

私は背もたれにドンともたれた。
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