あの日みた月を君も
配役人達は丸く円になって座る。

セリフの合間の人の動きは、担任が説明してくれた。

ストーリーは、学園恋愛の王道。

付き合っていた二人の前に、彼に片思いをしている女の子が色々とけしかけてくる。

あらぬ噂を立てたり、彼女に嫌がらせをしたり。

でも、そんな横やりが入っても二人は固い絆で結ばれていた、かのように見せかけて、

最後の最後に彼が横やりを入れていた片思いの女の子のそばにいた友達のことが実は好きだったみたいな告白をする。

そして、二人は固く抱き合って、キスをして、手をつないでばいばいーで終わり。

固く抱き合って、き、キスぅ?

もちろん、キスしてる振りなんだろうけどさ。

私はこれまで彼氏ゼロだし、キスなんて経験ないし、しかも相手があのヒロだし。

やっぱりさ、ドキドキしない方がどうかしてると思うんだけど。

結局、最後おいしいとこもってかれた主人公のキョウコは明らかに不満そうな顔をしていた。

なんなら、代わりましょうか?って言いそうになる。

読み合わせはちゃくちゃくと進んでいく。

そして、例のラストシーンになった。

担任が丁寧に、そんな丁寧に言わなくてもいいのに、私とヒロの動作を説明した。

周りの生徒達がひゅーひゅーと言ったり、「きゃ」と顔を隠したりしている。

私も平気な顔を装いつつ、顔が熱くてしょうがなかった。

「まぁ、キスは本当にしなくていいから。やってる風に映ればいいからね。」

担任は嬉しそうに笑った。馬鹿じゃない?

「あ、そういえば二人は月が好きな者同士の元恋人だったっけ?ベスト配役だな。」

なんて言って大笑いしやがった。

他の生徒達も笑ってる。何が楽しいんだか。皆人ごとだから笑えるんだわ。最悪!

「だから違うって言ってるのに。」

小さい声で吐き捨てた。

カスミだけはなぜかとても心配そうな顔で私を見ていた。

「やっぱり最初に決まってた配役に戻ろうか?」

なんてしおらしい声で聞いてきた。


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