あの日みた月を君も
すると、アユミが言った。

「私はね。どこでもいいの。」

困ったような泣きそうな顔で僕を見上げる。

「どこでもいい?俺も何も考えてなかったから困ったなぁ。」

泣きそうなアユミの顔に困っていた。

あんなに普段はちゃきちゃきと研究もこなし、教授にも発言する彼女が、こんなにも頼りない雰囲気なのが意外だった。

「外は寒いし、映画はどう?」

「いいわよ。何観る?」

アユミはこれまた何のためらいもなく即答した。

最近忙しくて、映画なんて観ていなかった。

今何がやってるかなんてことも全くわからない。

「とりあえず、T市まで出て映画館に行ってみようか。」

「ええ。そうしましょう。」

アユミはすっと立ち上がると、手早く身支度を整えた。

2人で研究室を出るのは、あの卒論に明け暮れていたあの日以来だ。

高鳴る胸を悟られないように、敢えてゆっくりと歩く。

外に出ると、まだ雪がちらちらと降っている。

「寒いわね。」

アユミが僕を見上げて言った。

寒さでアユミの頬は真っ赤だった。

まるで小学生みたいに真っ赤な頬をしているアユミがかわいくて笑った。

「何?どうして笑うの?」

アユミは不思議そうな顔をして僕の顔をのぞき込んだ。





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